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迷宮の国のマロン

 投稿者:バッカス  投稿日:2007年 5月16日(水)03時07分9秒 p2188-ipbf309funabasi.chiba.ocn.ne.jp
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  辻希美聖誕20周年記念連載小説(その1)



マンションのドアを開けると、愛犬マロンが出迎えてくれた。

飼い主に似て、いつも元気印のミニチュア・ダックスフント。
マロンの頭を撫でながら、片手でウエストポーチからケータイを取り出す。

たーくんから・・・着信・・・今日も無し? 一体どうしたんだろう。
忙しいのかしら? ちょっと気になるし、こっちからかけてあげよぅっと。

部屋のソファに座り込むと、気合いを入れてケータイの発信ボタンを押した。
「もしもし、あたし」  とっさにそう言いながら、のぞみは一瞬戸惑った。

電話の向こうでも驚いて、ハッと息を呑む気配があった。
ソファのかたわらで、愛犬マロンがキョトンとこちらを見ている。

「もしもし、あたしよ、の・ぞ・み」
いつもと違う気まずい沈黙を破るために、のぞみはそうささやいた。

「たーくん・・・でしょ?」

のぞみの問いかけをさえぎるように、落ち着いた女性の声がのぞみの耳に届いた。

「もしもし、主人に何かご用ですの」

「えっ・・・!?」 のぞみは思わず声を上げた。番号をまちがえた? そんなはずは・・・

「ごめんなさい。まちがえました」

「いいえ」 その女性はきっぱりと言い放った。

「こちらは杉浦の部屋です。あなたはのぞみさんね。わかってるわ。私の名前ものぞみです。
杉浦は私と結婚しましたの。あなたの努力も水の泡だったわね」

その勝ち誇ったような冷たい語調に、のぞみはいいしれぬ恐怖を感じて立ちすくんだ。
一瞬の沈黙の後、のぞみは思わず細かく打ち震える指先で電話を切った。

しばらくの間、のぞみの胸は激しく波打っていた。あの女性はいったい誰?
彼の部屋で妻と名乗る、あの「のぞみ」という女。なぜあたしを知っているの?

彼が妻帯者でないことは、自分もよく知っているつもりだった。でも・・・
彼に会えなかったのは、ほんの一週間。いったいどうしてこんなことに?
 
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